製品の原料調達や製造、流通などに伴う温暖化ガス排出量を徹底的に減らす低炭素製品の開発が活発になっている。削減できない分を「カーボンクレジット」でオフセット（相殺）し、排出量を実質ゼロにしたカーボンニュートラル製品も現れた。従来、こうした製品の開発は環境意識の高い消費者に向けたマーケティング目的の色が濃かった。それが今、事業の継続や企業の存続を左右する要件へと変わりつつある。規制や取引条件に
は23年9月、同社初のカーボンニュートラル製品となる新型「アップルウオッチ」を発表した。アルミケースの「シリーズ9」にスポーツループと呼ぶ、リサイクル素材でできた腕バンドを組み合わせた製品など、3機種だ。同社は30年までに全製品をカーボンニュートラルにすると宣言しており、今回の腕時計はその第1弾となる。アップルでは製造段階による排出が全体の65%を占める。その中でも最も重要なのが、電力消費によるCO2排出をいかに抑えるかだ。省エネはもちろん、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーにどれだけ転換できるかが勝負になる。
しかも、製造拠点を持たない同社の場合、サプライヤーへの働きかけが欠かせない。アップルでは30年までにアップル製品の製造全てに再エネを使うと確約するサプライヤーを支援するプログラムを15年に立ち上げており、現在は300社以上が参加する。今回の腕時計では、部品などを製造する全サプライヤーが参加し、同社製品向けの製造に使う電力の100%を再エネに転換した。生産ラインに並ぶアシックスの「ゲルライトスリーシーエム1.95」。テープを折り返した部品にひもを通しているのがわかる=アシックス提供 他社製品をしのぐ「排出量2キログラム以下」の目標を掲げ、人気製品シリーズの機能や性能を維持しつつ、排出を削減する技術開発に取り組んだ。アシックス・エグゼクティブアドバイザーの吉川美奈子氏は「『今までの当たり前を全部見直す』を合言葉に、一から材料やプロセスを見直した」と話す。だが、実はそれ以上に削減効果を発揮したのは部品点数の削減だ。50以上あった部品を半分にした。ただし部品を減らすと、構造が弱くなるなど機能が低下しやすい。そこで、1つの部品で複数の機能を担うようにするなど設計の工夫で解決した。その代表例が、スニーカーのデザインの特徴にもなっているテープだ。テープの折り返し構造によって甲を覆うアッパーを補強するだけでなく、ひも通しや、着脱しやすくするためのかかとの指のひっかけにも使う。ひも穴加工が不要になるなど、部品点数の削減に貢献した。加えて、テープであれば生地の端材を減らせる点でも、排出削減につながる。
こうした部品の削減は従来の生産性向上やコスト削減の延長線上にも見えるが、通常であれば「そんなことはできない」と、担当者から突き返されるようなアイデアだ。「2キログラムを切るという高い目標があったことで、全部見直さなければ実現できない、何でもやってみようという気概が社内に生まれた」（吉川氏）。サプライヤーではウオッシュ（見せかけの環境対応）への対策も重要だ。ライフサイクル全体を通じての排出量の把握だけでなく、第三者認証の取得が必要とされる場面も増えている。［日経産業新聞2024年2月9日付］
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