著者は音楽史・音響メディア論の専門家。研究対象となったのは映画・舞台役者として独特の存在感を示し、エッセイストとしても名を馳せた〝怪優・小沢昭一〟だ。１９７…
著者は音楽史・音響メディア論の専門家。研究対象となったのは映画・舞台役者として独特の存在感を示し、エッセイストとしても名を馳せた〝怪優・小沢昭一〟だ。１９７０年代は独自の芸を確立するために放浪する芸人を訪ね歩き、ＬＰレコード『ドキュメント 日本の放浪芸』シリーズ（全４巻）を完成させた。小沢昭一とは一体、何者だったのだろう。「私が生まれた７１年に『ドキュメント 日本の放浪芸――小沢昭一が訪ねた道の芸・街の芸』（７枚組）が発売されたんです。同時代を生きていたのに小沢さんに興味を持つことはなく、４０年近く続くラジオ番組『小沢昭一の小沢昭一的こころ』（ＴＢＳ）も一度も聞いたことがありませんでした。無形文化財の研究をしている私には、小沢さんは『古いものを残すのが好きな人』ぐらいのイメージだったのです。が、文化財に対する考え方を文章で読んだときに、それは間違いだったと思いました」
「ＬＰの解説文にも不惑の小沢さんが『自分が古きよきものを残すだけの人と思われたくない』という内容の文章をまるで叫びながら書いていて、その気持ちが伝わってきて、これまでにない新しい人というイメージに変わりました」「雅楽の研究をしているなかで、アカデミズムな沖縄音楽研究に対して反感を持っていたジャーナリストの竹中労さんの研究もしていました。小沢さんに対してライバル心を抱いていた彼は、小沢さんの『放浪芸』を意識しながらＬＰレコード『沖縄／祭り・うた・放浪芸』を監修。その中で小沢さんがナレーションを担当しているんですよ。そのＬＰを知ったのが小沢さんとの出会いです。彼らは似ていながらもスタンスが違ったんです。お金を投じて好きな音楽を残そうという竹中さんに対し、小沢さんは自分の芸のために必要なものを吸収し、エッセンス的なものをつくっていった。『日本の放浪芸』では、放浪芸をそのまま伝えるのではなく、小沢さん自身の物語にしてしまったんです」
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