子供の頃、カセット型のゲームソフトに自分の名前を書き、大事にしていた記憶はありませんか。そんなソフトを当時の思い出とともに持ち主に返すという、風変わりな活動を続けるネット博物館があります。開館から7年。持ち主が判明したケースは少ないですが、今回、貴重な「5人目」への返却の様子を取材することができました。(時事ドットコム編集部 太田宇律)
「名前入りカセット博物館」の館長は、東京都世田谷区のゲーム開発者、関純治さん(50)。任天堂の「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」を中心に、1500点を超える「名前入り」のソフトやゲーム機本体などを自宅に所蔵し、一部をウェブ上で写真付きデータベースとして公開している。
若いころから熱心なゲームコレクターだったという関さん。1000種類以上あるファミコンカセットを全て集めようと考えていたが、敬遠されがちな「名前入り」をあえて収集するようになったのは、2003年10月。出張で訪れた米国で1本のカセットと出会ったことがきっかけだ。ふらっと立ち寄った米サンディエゴの中古ゲーム店で見つけたそのカセットは、現在もヒットしている「ゼルダの伝説」シリーズの初期作品。海外版のファミコン用で、珍しい金色がコレクター心をくすぐったが、汚れが目立ち、裏側には黒いペンで「Teresa」と名前らしき書き込みがあった。 「名前入り、箱なしで1400円・・・高いなあ」。悩んだ末に購入を見送り、店を出たが、少し歩いてふと気付いた。「外国人も名前書くんだな」。日本独特と思っていたカセットへの記名が世界共通の行動だったことに、はっとすると同時に「名前入りこそ、世界に一つしかない貴重なものなのではないか」との考えが浮かび、急ぎ店に引き返した。
コレクションが充実するにつれ、「いずれは持ち主のもとに返せたら面白い」と考えるようになったといい、2016年、ウェブ上に博物館を開設。これまで10件ほどの問い合わせが寄せられ、元少年の「山口」君や「小笠原」君ら4人に返還した。「5人目」として名乗り出たのは、神奈川県厚木市の会社員、小嶋友樹さん(39)だ。小嶋さんは23年5月、仕事から帰って居間で食事をしていたとき、テレビ画面にくぎ付けになった。「これ、俺のカセットじゃないか?」 放映されていたのは、名前入りカセット博物館の所蔵品を紹介し、持ち主を探す生放送の深夜番組。カセット裏面にひらがなで記載された「ゆうき」の文字は黒く塗りつぶされ、脇に知らない子の名前が書かれていたが、「字体や位置にはっきり見覚えがあった」。すぐに生放送中の番組に電話をかけたという。